2016年12月22日
異彩を放つ種牡馬 フランケル
いま馬産地で話題が集中しているのは、種牡馬フランケルに関してだ。海外供用種牡馬がこれだけ注目された例は、これまでなかったかもしれない。
2016年に2歳がデビューしたばかりの新種牡馬だが、11月27日時点で日本でデビューした4頭のうち2頭が勝ち上がり、その2頭がG3ファンタジーSを勝ったミスエルテ(めす、母ミスエーニョ=栗東・池江)とアイビーSを勝ったソウルスターリング(めす、母スタセリタ=美浦・藤沢和)。ともにデビュー2戦を圧勝して、来春の桜花賞候補に挙げられている。まだ勝ち星を挙げていない2頭も、ライズイーグル(牡、母ローズオブサマー=栗東・森)は新馬、未勝利が1、2番人気(5、6着)、クーファディーヴァ(めす、母イーデンズコーズウェイ=栗東・中内田)が新馬1番人気(12着)。4頭が走った計7走(4勝)は1番人気5回、2番人気2回と、ファンも「フランケル産駒」に注目していることがうかがえる。
英国・ニューマーケットのバンステッドマナー・スタッドで繋養されているフランケルの初年度産駒は110頭程度と思われ、このうち日本で血統登録されているのが約1割の10頭で、すにデビューした4頭以外の6頭は日本デビューの予定。今後も大物フランケル産駒が登場してくる可能性が高い。2年目産駒も入厩先が決まっている「ワイルドココの2015」(めす=栗東・藤原英)をはじめ、すでに計4頭が血統登録されており、今後も輸入競走馬が増えてきそうだ。サンデーサイレンス系、特にディープインパクト一色になりつつあった日本の種牡馬界に、海外供用とはいえフランケルの存在感は異彩を放つものとなっている。
これまで「サドラーズウェルズ系は日本の軽い馬場に向かない」というのが馬産地の定説になりつつあった。サドラーズウェルズ系は世界を席巻しているが、日本に輸入された直仔の種牡馬では、テイエムオペラオー、メイショウサムソンらを輩出したオペラハウスが目立つ程度で、他はあまり成功とは言えない状況。フランケルの父で、16年は凱旋門賞で上位3着までを独占するなど世界中のGⅠを勝ちまくっている大種牡馬ガリレオにしても、日本では20頭以上の産駒がデビューしているが、ヴィルジニア、レッドシャンクスが準オープン級の活躍をしている程度で、重賞勝ち馬は出ていない。これまでのサドラーズウェルズ系と同様な傾向を示している。
だがフランケル産駒のこの活躍ぶりは、サドラーズウェルズの血が代を経ることで、様々な条件に対応できる多様性を呈してきたと考えることができる。以前は日本に向いていないと言われていたミスタープロスペクター系も、代を経てキングカメハメハ、エルコンドルパサー、アドマイヤムーンなどが目覚ましい種牡馬成績を残すようになってきた。サドラーズウェルズ系がいよいよ本格的な日本進出を開始するきっかけになるのかもしれない。
フランケルの種付料は17年もこれまで同様12万5000ポンド(約1740万円)で、16年1歳馬セール平均価格は52万8358ポンド(約7400万円、ウェザビーズのスタリオンブックオンラインより)。ディープインパクトの種付料3000万円、16年セレクトセール1歳の平均価格が1億1445万円であることと比べれば、かなり格安にも感じられる。過去にダンシングブレーヴ、ラムタラなど欧州の超一流種牡馬を輸入した実績がある日本の馬産地だが、フランケルは欧州でも初年度産駒が順調に活躍しており、健康面でも全く問題のない欧州の至宝を輸入するのは、さすがに困難なことだろう。だがフランケル産駒の輸入や、ガリレオ産駒の種牡馬導入は今後増加するに違いない。
その意味でも注目したいのは15年から日本軽種馬協会静内種馬場で供用されているケープブランコ(9歳、父ガリレオ、母ローレルディライト、母の父プリシディアム)だ。同馬は3歳時に欧州で愛ダービー、愛チャンピオンSを制し、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS2着。4歳時は米国でアーリントンミリオン、マンノウォーS、J・ハーシュ・ターフクラシック招待SとG1・3レースを制し、11年米芝牡馬チャンピオンに選ばれている。15年から日本軽種馬協会静内種馬場で供用されており、初年度種付頭数は132頭。2年目は47頭に減少したが、今後はフランケル産駒の活躍が追い風になる可能性がある。18年の日本での初年度産駒デビューが待たれる。