2005年6月1日
スター出現 チャンス到来
ギャンブルを超えたディープインパクト
東京競馬場に集まった14万人の観衆の誰もが 「この日、 競馬場に来て本当に良かった」 と思ったはずだ。 もちろん馬券が外れて、 そのときには心からは喜べない人もいたかもしれないが、 馬券を外した悔しさはすぐに忘れても、 ディープインパクトがくれた感動は生涯忘れないだろうし、 子供、 孫にも伝えていくかもしれない。 そんな日本ダービーだった。
単勝支持率は73・4%だった。 ハイセイコーの66・6%にかなり迫るだろうとは思われていたが、 あのハイセイコー・ブームのすごさを良く知っているだけに、 まさかここまでの数字になるとは思わなかった。 特別給付金があるので110円の払い戻しとなったが、 以前だったら完全な100円元返しである。
なかには 「10円でもつけばラッキー」 と単勝を大量に購入した人がいたかもしれないが、 前々日発売では単勝支持率93・89%だったのだから、 100円戻しになるリスクも高かったはず。 きっと多くのファンは配当など関係なしに、 歴史的名馬の単勝を買っていただけなのではないだろうか。
翌日のスポーツ新聞の1面はすべてディープインパクト一色だった。 ダービーなのだから当然、 と思う人もいるかもしれないが、 これは快挙なのである。 GIレースの週は当日までは1面になることが多いが、 レース翌日に1面になることはほとんどない。 読者のほとんどが 「予想」 には興味を持っているが、 すでにテレビなどで知っている 「結果」 に対しては興味を示さない。 スポーツ紙では綿密なアンケート調査をやってその新聞の 「顔」 である1面を決めている。 競馬もしょせんは 「ギャンブル」 としての扱いだったのだ。 だがディープインパクトは、 この面でもギャンブルを完全に超えていた。
1頭のスーパースターがブームを作り出し、 競馬人気を一気に盛り上げていくことは、 これまでのハイセイコー、 オグリキャップが証明している。 同じことがいまディープインパクトの登場で起ころうとしている。 JRAが盛り上がりを取り戻せば、 それは地方競馬にも必ず波及していく。 競馬関係者にとっては大きなチャンスである。
このチャンスを生かすためには、 ディープインパクトが故障しないことがもっとも重要だ。 これまでにもスーパースター候補になりながら、 故障のためにブームまで作り上げられなかった馬は何頭もいる。 クロフネもキングカメハメハも 「もし無事だったら」 と思わせる馬だった。
ディープインパクトのダービーは2分23秒3のタイレコードだったが、 ディープインパクトの後半1000メートルを計算すると57秒3-33秒4という脚を使ったことになる。 4角で大外に振ったことを考えると、 とんでもない脚だったことになる。 最近のダービーにしては比較的速めの前半5ハロン59秒9という流れだったから、 まだこの程度の後半で済んだが、 もしオークスのようなスローな流れだったら、 ディープインパクトの負担はもっと大きくなっていたはずだった。 ディープインパクトは小柄な馬体で脚元の心配は比較的少ないのかもしれないが、 それでも1400メートルを走ったあとに1000メートル56秒などという脚を使ってしまったら、 故障する確率はかなり高かったことだろう。 そう考えるとゾッとする。
陸上競技ではないのだからラビットを使ってペースを保つようなことはできないが、 馬場を少しでもソフトにすることは、 いまからでも可能なはずだ。 トライアルの神戸新聞杯 (阪神) は秋競馬の開幕第3週目、 3冠の舞台となる京都競馬場も5月から開催が開いているので馬場状態は絶好だし、 もともと高速馬場。 だが、 芝丈をあと2センチ程度長くし、 もっと積極的に散水をするだけでも、 時計はかなり変わってくるはずだ。
ディープインパクトは種牡馬としての価値も極めて高いだけに、 生産界としては一刻も早い種牡馬入りを望んでいるだろうが、 ファンは6歳、 7歳まで勝ち続けていくディープインパクトを見てみたいと思っている。 馬場状態だけでなく、 ディープインパクトに長く現役を続行させるような施策、 たとえば 「有馬記念3連覇30億円ボーナス」 「GI10勝50億円ボーナス」 のようなアイデアが主催者にあってもいいのではないだろうか。 それだけの波及効果が期待できる馬なのだから。