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馬産地往来

2020年10月23日

クッション値をどう捉えるか

後藤 正俊

 JRAは9月11日から、新たな馬場状態の指標として「クッション値」を発表している。クッション値とは、競走馬が走行時に馬場に着地した際の反発力を数値化したもので、この数値が高いと馬場の反発力が高い。クッション値の測定はゴルフ場やサッカー場、ラグビー場などでも使用されている簡易型硬度測定器のクレッグハンマーを使用し、2.25キロの重りを45センチの高さから自由落下させて馬場に衝突した際の衝撃加速度を測る。測定場所は芝コースの内柵から2~3メートルの範囲の5カ所で行い、その平均値をその地点のクッション値とし、その計測をゴール前、4コーナー、その間の各ハロン地点で実施。各地点の平均値をそのコースのクッション値として公表している。えらく複雑で手間のかかる作業だが、より正確さを求めるJRAらしいこだわりが感じられる。
 これまでの日本競馬の馬場状態発表は、ばんえい競馬を除いて、馬場担当者が踏査して総合的に判断する「良」「稍重」「重」「不良」の4段階で行われてきた。JRAでは2018年からこれに加えて「含水率」を発表するようになった。これは「同じ良馬場発表でも、実際の走破タイムには違いが大きすぎる」とのファンの声を反映させたもので、ダートコースの含水率は概ね良が9%以下、稍重が7~13%、重が11~16%、不良が14%以上と分類することができるが、芝コースの場合は敷設されている路盤の種類によって含水量が大きく違い、砂粒が荒い福岡県西戸崎産の山砂にピートモスを混合し排水性を良くした小倉競馬場は10%以下なら良馬場だが、バーク堆肥を多く含み含水率が高い東京競馬場は19%以下が良馬場と判断されている。これでは含水量を見ても、一般競馬ファンが馬場状態を把握するのは難しかった。
 クッション値と馬場状態との関係は、7以下は「軟らかめ」、7~8は「やや軟らかめ」、8~10は「標準」、10~12は「やや硬め」、12以上は「硬め」と分類される。路盤の水分量を測定する含水量に対して、芝の反発力を計測するだけに、より直接的に走破タイムに関連すると予想されている。各馬の能力が伯仲した中で行われている現在の競馬では、馬場状態が馬券検討を大きく左右するだけに、ファンにとってはこの公表はありがたいものになりそうだ。ただ、当日のクッション値をJRAホームページから探し出すのはなかなか面倒な作業で、ぜひ場内掲示板や場外モニター、テレビ中継でもひと目で判るような表示の工夫はしてもらいたい。また、含水量と同様にクッション値も、開催前日・当日の朝だけの計測であるため、当日の天候変化には対応していない。雨天時や直射日光が強い日は、あくまでも参考値として考えていた方が良さそうだ。
 そう考えるとこのクッション値公表は、ファンへの対応だけでなく、海外へのアピールという意識もあるのではないだろうか。海外の競馬関係者からは「日本の馬場は硬い」という評価が定着している。一昨年のジャパンCを勝ったアーモンドアイのタイムは2分20秒6の世界レコードで、このタイムを見てジャパンC参戦を躊躇した陣営がいたかもしれない。近年は減少が続いていたジャパンC参戦外国調教馬だが、昨年は遂に0頭になってしまった。もちろん日本馬の実力向上、海外高額賞金レースの増加などの要因もあるだろうが、外国馬誘致の広報活動の上で、馬場問題は無視できない。JRAが事前にイギリス、フランス、香港、オーストラリア、アメリカの海外主要競馬場で調査したクッション値は概ね7~10だったと公表しており、これは日本の馬場とほとんど差がない。日本の芝コースが高速決着になるのは馬場の硬さの問題ではなく、他国では見られない綿密な芝管理を行っているためであることを証明したことにもなる。
 今後、気を付けていきたいのが、JRAがクッション値を目安にして馬場管理を行っていく可能性があることだ。例年の秋の中山開幕週は高速決着が当たり前になっており、昨年の京成杯AHはトロワゼトワルが1分30秒3という日本レコードをマークしたが、今年も連覇を果たしたトロワゼトワルの良馬場での勝ちタイムは1分33秒9と3秒6も遅かった。負担重量が3キロ増になったことを考慮しても、あまりにもタイム差が大きかった。クッション値の発表に合わせ、エアレーション、シャタリングなどでクッション性をより確保したこともうかがえる。日本競馬は高速決着で成長してきた。種牡馬、繁殖牝馬もその高速決着の中で選び抜かれた馬が多くなっている。もし急激な馬場管理の変更が行われていくようなら、そうした血の繋がりにも影響が出てくるのではないかという心配もある。

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