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馬産地往来

2007年12月1日

ダーレー・ジャパンのゆくえ

アドマイヤムーンのJC制覇の影で

後藤 正俊

 ジャパンCは、 全欧年度代表馬ディラントーマスが検疫の問題で出走できなかったことは残念だったが、 直線でのアドマイヤムーン、 ポップロック、 メイショウサムソン、 ウオッカという日本馬同士の壮絶な叩き合いは、 じつに見応えがあった。 日本馬のレベルの高さを見せつけた1戦だった。
 それも当然のことで、 アドマイヤムーンはドバイデューティーフリーを制し、 香港Cでも2着と世界のGIで実績を残している馬だし、 ポップロックもメルボルンC2着、 ドバイシーマクラシック6着の成績がある。 メイショウサムソンとウオッカにしても、 惜しくも今年の凱旋門賞挑戦は実現できなかったが、 もし遠征していたとしても恥ずかしい成績にはならなかったはずだ。 世界最高レベルで争われたジャパンCだったと言っても過言ではないだろう。
 勝ったアドマイヤムーンは40億円の巨額でダーレー・ジャパン・ファーム (DJF) にトレードされた馬で、 DJFにとってはこのレースが記念すべきJRA初勝利となった。 当初は馬産地からも反対意見の多かったダーレーのJRA進出だったが、 天下のダーレーが日本産馬のアドマイヤムーンに目をつけて、 しかも引退後は日本で種牡馬入りさせるのだから、 この進出は現時点ではマイナス面よりもプラス面の方が大きかったと言えるだろう。
 そのアドマイヤムーンは種付け料500万円で、 ダーレー・ジャパン・スタリオン・コンプレックスで供用されるが、 フォーティナイナー~エンドスウィープの血は世界的にも希少になってきているだけに、 日本の生産者ばかりでなく、 世界的にも注目を集めるかもしれない。 人気沸騰は間違いないところで、 このまま順調に行けば40億円のトレードマネーは決して高くはなかったはずだ。
 そのアドマイヤムーンが供用される同コンプレックスには、 新たに来春からディクタット (父ウォーニング、 英スプリントC、 仏モーリスドギース賞)、 ストーミングホーム (父マキャヴェリアン、 英チャンピオンS、 米チャールズウィッティングハムHなど)、 ザール (父ザフォニック、 英デューハーストS、 仏サラマンドル賞) の3頭も加わる。 現在供用中のファンタスティックライト、 アルカセット、 ルールオブローを加えて人気種牡馬7頭の布陣となり、 日高地区の一大スタリオン施設に君臨する。
 近年は社台スタリオンSによる寡占状態だった日本の種牡馬界だが、 同コンプレックスがさらに勢力を伸ばしていけば、 社台とともに2大巨頭として競り合うことで、 良い意味でお互いの成長も期待できる。 これも馬産界にとって価値のあることだ。
 だが、 そう思っていた矢先に、 DJFがJRA馬主免許を返上してしまった。 紆余曲折の末の取得からわずか4か月での返上という異常事態だ。 ダーレー・グループ内で意見の相違があり、 高橋力氏がダーレー・ジャパンの会長を解任されたことによって、 内部でいろいろな問題が起きていることは想像に難くない。 この事態によって、 今後ダーレー・グループが日本で何を行っていくのか、 まったく見えなくなってきてしまった。 悪い方向へ転がっていかなければいいが、 と願うばかりだ。
 このダーレー・グループの問題はあくまで一企業内の問題なので、 外部の人間がとやかく意見することではない。 だが競馬ファンにとっては何か 「きな臭さ」 も感じてしまう。 JRAが非居住外国人馬主を認めていないのは、 既存馬主の保護が目的でも、 生産界に対してのサービスでもなく、 あくまでもファンに対して透明性の高い競馬を実施していくためのものである。 常に馬主が連絡のつく場所にいなければ公正競馬に支障をきたす可能性があるからだ。
 JRAはDJFが馬主資格を取得できなかった昨年も、 取得できた今年も、 もちろん免許返上についても、 その状況について一切の説明はしてこなかった。 馬主の個人情報保護という面はもちろんあるのだろうが、 一般論として外資企業に対してどのような基準で資格を与えているのか、 わかりやすい競馬規則をファンに示すことが必要だろう。

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