2012年8月23日
驚嘆の2日間 主役はディープ
SS化してきたディープインパクト
今年のセレクトセールも驚嘆の2日間だった。大震災の影響が必至と思われていた昨年が、逆に売り上げを伸ばす結果だったことには心底驚いたが、今年の驚きはそれ以上。バブル景気が戻ってきたのではないかと錯覚するほど、どの馬にもあちらこちらから入札の声が相次いだ。
2日間トータルで453頭が上場されて360頭が落札。売却総額は昨年を11億円以上上回る102億9630万円で、2日間開催となってから初めて100億円の大台を突破した。
吉田照哉副会長は「本当に驚いた。セール前から下見のお客さんが多かったので、失敗するとは思っていなかったが、これほどまでに売れるとは、誰も想像していなかったはず。いままでの常連さんと、新しいオーナーとが混在し、いい緊張感で競っていたので、途中でダレることがなかった。クラブ法人の会員100人をバス2台で見学に連れてきたが、見ていると買ってみたくなるようで、1000万円以下のリザーブ価格の馬もよく売れていた。景気はいいわけはないのだが、それでかえって、仕事に投資するよりも馬で楽しむほうがいいと考えた馬主さんもいたのではないだろうか」と、不況下での驚異の売り上げに独自の分析をしていた。購買登録者数は昨年より39人も多い440人まで増加したことがセールの土台を支えていた。
セリの主役はディープインパクトだった。1億円以上で取引されたのは10頭だったが、このうち8頭を同産駒が占めた。最高価格2億5000万円を記録した「アドマイヤキラメキの2011」(牡1歳)と、「スカイディーバの2012」(牡当歳)はともに前評判の高かった産駒。ディープインパクトの平均価格は1歳が8569万円、当歳が7907万円。上場28頭中27頭が売却されて、全頭平均では8226万円。サンデーサイレンスは00年に平均1億2485万円という驚異的な記録を残しているが、当時のサンデーサイレンスはすでに大種牡馬として確たる成績を残しており、種付け料も2~3000万円と破格だった。それに対してディープインパクトはまだ産駒実績は2世代だけで、種付け料も1000万円。それでいてこのセール成績は、限りなく偉大な父に近づいてきている印象だ。
この点について吉田照哉副会長は「ディープインパクト産駒はエレガントで、頭が小さく見栄えがする。自身も、産駒のディープブリランテもセレクトセールで取引されたこともあり、またその夢を追いたいという購買者の気持ちも表れていた。ディープインパクトの種付けは馬主所有牝馬が多く、このセールでないとなかなか産駒を買うことができない。その意味でディープインパクトの"サンデーサイレンス化"を感じています」と話した。
09年のリーディングサイアー、マンハッタンカフェ、10~11年連続王者のキングカメハメハ、現在首位のディープインパクトがセレクトセール出身馬ということで、セレクトセールは「大種牡馬を輩出するセール」という評価も定着してきた。その意味では全盛期のキーンランドセールに匹敵するセールになってきたともいえる。
世界から注目を集めるのも当然のことで、今年も外国人購買登録者が6人おり、注目のディープブリランテの全妹「ラヴアンドバブルズの2012」(牝、父ディープインパクト)は1億4500万円で豪州の鉱業王、ポール・ファッジ氏が落札した。セレクトセールは外国人購買者を意識して、来年度からさらに1歳馬を重視する方向へシフトすることが検討されていた。だが今年の当歳セールは当歳・1歳合同で行われるようになった06年以降、07年に次ぐ74・9%の落札率で、平均価格も1歳を400万円近く上回る3066万円を記録した。
吉田照哉副会長は「1歳に比べれば、当歳は購買者にとって明らかにリスクが大きいのに、信じられないような売れ方をしている。当歳セールを止めないでくれ、という声も多く届いている。不思議な話ですが、それが現実。当歳はかわいいからでしょうか。しかも、外国人がこんな高額馬を当歳で買ってくださっているのだから、当歳を止める理由なんてないでしょう」と来年以降も現状のシステムを継続させる考えを明らかにした。
セレクトセール翌週に行われたHBAセレクションセールも、211頭の上場で売却は129頭、売却率61・1%、売上総額15億8172万円、平均価格1226万円と、昨年を売却率で6ポイント、平均価格では309万円も上回る好成績となった。セレクトセールとセレクションセールがお互いに高めあうことで、馬産地は着実に元気を取り戻しつつある。