2009年8月1日
1歳中心にシフトする転機
SSの魔力が解けた第12回セール
セレクトセールが大きな岐路を迎えることになった。 7月13日から15日まで開催された 「セレクトセール2009」 は、 3日間トータルの売却総額が79億9323万円。 昨年と比較すると21億8000万円という大幅な減少となった。
この結果について吉田照哉・日本競走馬協会副会長はセール後の記者会見で、 「これだけの経済不況の中での開催でしたので、 売り上げが大きく落ち込むことは覚悟していました。 もしかしたら (社台ファームで) 上場した馬が1頭も売れずに、 全部持ち帰らなければならないとすら思っていたほどです。 サラブレッドというのは生活必需品からもっとも離れた存在で、 不景気になれば真っ先に切り捨てられるもの。 それなのに戦後最悪とさえ言われている経済不況下にこれだけの成績を残したことは、 むしろ喜ぶべきだと言えるのではないでしょうか。
確かに価格は下がりましたが、 セールを5年、 10年とやっていれば、 かなり高くなってお客さんから“買えない”と言われるときもあるし、 今回のように安くなって“買いやすかった”と言われるときもある。 セールとはそういうものです」 と、 想定内だったことを強調していた。
だが1歳セールが昨年より3億7000万円増、 売却率8・7ポイントアップという成績だったのに対し、 当歳セールは大幅に減少したことについては、 「いまはトレーニングセールもある時代で、 当歳馬が売れなくなってきたという流れはある。 当歳のうちから買ってもらおうと思ったら、 買わざるを得ないとお客さんが思うような馬でなければならない。 いままでもイヤリングセールが世界標準だから1歳にシフトしろ、 という意見はあったものの、 当歳で売れているのに無理をして1歳中心にする必要はなかったが、 今回の結果がきっかけとなって来年以降、 当歳から1歳へとセールの中心がシフトしていくという流れは、 当然、 出てくるでしょう」 と、 今後は1歳馬の上場を徐々に増加させていく方針であることを示唆した。 創設当時からセレクトセールの“顔”だった当歳セールが縮小されていくことは大きな方向転換となる。
吉田照哉副会長が指摘した通り、 当歳馬に対しての需要は 「どうしても当歳時でなければ手に入れられない馬」 が中心となる。 当歳馬で購入するということは、 デビューまでの期間が長くなるので故障などのアクシデントが起こる確率は高まるし、 預託料も1年分余計に掛かる。 そして何よりも、 当歳時ではその後に馬体がどのように成長していくのかを見極めることが、 1歳よりもはるかに難しい。 それだけのリスクがあっても絶対に手に入れたい、 という馬でなければ当歳の取引は本来成立しないものなのだ。
セレクトセールにサンデーサイレンス産駒がいるときは、 その取引が成立していた。 というよりも、 サンデーサイレンス産駒がいたからこそセレクトセールは 「当歳セール」 として誕生したと言ってもいいだろう。
サンデーサイレンスという種牡馬は、 「サンデーサイレンス産駒でなければクラシックを勝てない」 という幻想まで馬主に抱かせていたが、 セレクトセール創設以前は、 その産駒を手に入れられるのはシンジケート株を所有するオーナーブリーダーや社台グループと古くから関係のある馬主で、 新規馬主はいくら高額を提示しても庭先取引で所有することは困難だった。
だがセレクトセールが開設されたことで、 誰もが平等な商取引でサンデーサイレンス産駒を手に入れられるようになった。 サンデーサイレンス産駒の良血馬ならたとえアクシデントでレースに出走できなかったとしても、 牡馬は種牡馬として、 牝馬は繁殖牝馬としての価値も計算できる。 そして何よりも大きな夢を見ることができる。 当歳で取引するリスクを購買者は感じていなかったのだ。
サンデーサイレンス産駒がいなくなってからも、 当初は余韻が続いていたものの、 5年が経過して経済が不況を迎えると、 熱気も落ち着いてきた。 アグネスタキオンにも、 ディープインパクトにも、 ネオユニヴァースにもサンデーサイレンスの代わりはできなかったのだ。
父はあまりにも偉大すぎた。 1歳セールへの移行というセレクトセールの大きな変革は、 サンデーサイレンス時代の本当の終焉を示しているようにも見えてきた。 (金額は消費税込)