2012年4月24日
種牡馬サバイバル時代の影で
無名種牡馬に思うサラブレッドのロマン
ジャパン・スタッドブック・インターナショナルから2012年供用予定種牡馬名簿が3月半ばに発表された。この資料によると、サラ系統が265頭、アラ系統が17頭の合計282頭。11年よりサラ系統で24頭減、アラ系統で3頭減となる。頭数が300頭を割るのは平成になってから初めてで、頭数が一番多かった1991年と比べると68・2%の減少となり、系統別ではサラ系統が60・8%の減少、アラ系統が92・0%の減少となった。
アラブの場合はすでに単独レースが実施されておらず供用種牡馬の減少は当然のことだし、今年供用される17頭もほぼ競走馬向けではないが、サラブレッド種牡馬が265頭まで大きく減少していることには複雑な思いがある。265頭といっても種牡馬登録をされながら実質はアテ馬、乗馬もおり、種付け料無料のものを除くと、商用として種牡馬生活を送っているのは150頭にも満たない。11年父馬別血統登録頭数で産駒が5頭以上だった国内供用種牡馬は149頭だった。
11年の生産頭数は7085頭(サラ系統7069頭)で前年比51頭の減少。11年種付け頭数は9397頭(サラ系統9379頭)と同385頭も減少しており、12年の生産頭数は39年ぶりに7000頭を下回ることが予想されている。生産頭数が減少しているうえに、人気種牡馬が多頭数交配を行っていることで、種牡馬のサバイバル競争はし烈を極めている。抜群の競走成績と血統の両方を併せ持ち、なおかつ種牡馬成績が初年度からある程度目立たなければ生き残っていけない。なおさら厳しい世界になってきた。
その状況のなかで、3月11日中京7R(4歳上500万下、ダート1700メートル)でJRA2勝目を上げたパープルセンリョ(牡4歳)はひと際、新鮮な魅力を放ってくれた。同馬の父はインターハイクラスという一般には馴染みの薄い種牡馬。それもそのはずで、現役時代は九州地方競馬でしか走っていなかった馬なのだ。
父は大種牡馬ダンシングブレーヴ、母は仏GⅢ・3着馬サボンネリエ(その父アイリッシュリヴァー)、半兄にJRA3勝で種牡馬入りしたエーピーダンサーがいる良血馬で、JRAデビューを目指して美浦・高松邦厩舎に入厩したが未出走のまま地方・佐賀へ移籍した。だがその素質は九州地方競馬では格が違い、デビュー4戦目から破竹の23連勝を記録して荒尾の重賞・九州王冠を制するなど30戦25勝の大活躍をした。570キロの雄大な馬格と圧倒的なスピードは“九州の怪物”の名にふさわしく、レース中の故障で引退したものの、無事なら九州の重賞を総なめしていただろうといわれている。
九州王冠で破った相手のなかにはGIダービーグランプリなどを制したナリタホマレ、JRAオープンでも走ったパワーズフォンテン、サンキューホーラーもおり、荒尾の重賞とはいっても決して低いレベルではなかった。全国的な知名度はなかったが、馬主の熱意で種牡馬入りを果たすことができた。
供用は交配牝馬にあまり恵まれない十勝地区で、交配頭数は06年から5、7、4頭。けい養牧場が廃業したこともあり08年限りで種牡馬を引退している。血統登録された産駒は6頭だけだが、現時点でデビューした4頭中3頭が勝ち馬になっているのだから、種牡馬としても高い能力を持っていたはず。
そのなかで唯一JRAデビューしたのがパープルセンリョで、主取となったものの09年HBAサマーセールに上場されたことがきっかけでJRA入りの道が開けた。父譲りの雄大な馬格、スピードを見せており、父が踏めなかったJRAの舞台でさらに勝ち星を積み重ねる可能性も十分。同馬を熱心に応援している九州の競馬ファンはきっと多いはずだ。
かつては「北の怪物」「道営史上最強馬」と崇められたコトノアサブキの産駒ソーエームテキが、道営デビュー後にJRA入りし、NHK杯3着、ダービー5着とクラシック路線で活躍し、道営ファンを熱狂させたことがあった。ロマンでは食べていけないことは百も承知だが、地方の英雄が種牡馬となって自らが果たせなかったJRAの舞台で大活躍するというサクセスストーリーが、今後は本当の夢物語になってしまうかと思うと、少し寂しい気がする。