2013年8月26日
ディープ産駒が買える市場
海外進出がもたらした国際的な評価
もう何年、同じ言葉でこの月の原稿を書いていることだろうか。今年もまた、セレクトセールは信じられないような光景の連続となった。
2日間の売上総額は117 億6470万円。3日間開催だった06年の117億5450万円を上回り、史上最高記録を更新した。1歳セールの最高価格馬は1億8000万円、当歳セールも2億円台が2頭(2億4000万円、2億3000万円)出ただけで、06年のように6億円、3億円という突出した高額馬が成績を押し上げたわけではない。当歳の落札率は4年連続上昇の75・5%、1歳の落札率は当歳・1歳を通じて過去最高の87・9%。平均価格は当歳・1歳とも3年連続の上昇となった。社台グループの生産馬も日高産馬も、満遍なくよく売れた結果だった。
核となったのはもちろんディープインパクト産駒。1歳セールは12頭すべてが取引され、平均価格は9067万円。2番目に高額だったキングカメハメハに3400万円もの差をつけた。当歳セールは17頭中16頭の売却で平均価格は9538万円。こちらはキングカメハメハと5500万円差である。平均価格が9000万円台というのはサンデーサイレンスの全盛期に匹敵するもので、セレクトセールという驚異の市場を作り上げたサンデーサイレンスの後継として、息子が市場をさらに成長させる役割を果たしている。
ディープインパクトはすでに種牡馬として確固たる地位を築いており、セレクトセールは「ディープインパクト産駒が買える市場」として、しばらくの間は看板の心配が要らない状況が続きそうだ。
当歳セールでは5頭が1億円以上で取引され、そのうち4頭はディープインパクト産駒だったが、残りの1頭は新種牡馬ヴィクトワールピサ産駒「メイキアシーの2013」(牡、1億1000万円)が食い込んだ。馬産地では今春生まれた初産駒の評判が非常に高かったのだが、いきなり1億円馬が登場した驚きと同時に、サンデーサイレンス3世種牡馬がこれほどまでに高評価されたことへの感慨深さも感じられた。ヴィクトワールピサ産駒は12頭すべてが取引された。
ここが今回のセールのポイントだったのかもしれない。セール終了後に、今回初めてセールに参加して5頭を購買したファハド・アル・ターニ殿下(カタール)の代理人デイビッド・レッドヴァース氏が行った会見が印象的だった。
同氏は「こんなに運営がしっかりとしているセールは世界のどこにもない。上場馬のレベルはタタソール・オクトーバー、キーンランド・セプテンバーと比べても、同じかむしろ上だったかもしれない」とセレクトセールを絶賛。今回、セレクトセールに参加したきっかけを「ヴィクトワールピサ、オルフェーヴルなど日本産馬が世界の大舞台で活躍しており、レベルの高さに注目していた。また世界的な繁殖牝馬セールでは日本人が優秀な牝馬を多く落札しており、日本産馬の血統はどんどんと高まっている」と日本馬、ホースマンの世界進出が大きな要因になっていると説明したのだ。
同氏はキングカメハメハ産駒2頭、ネオユニヴァース産駒2頭、ヴィクトワールピサ産駒1頭を購買した。日本のセールに初参加したバイヤーが、日本の種牡馬について、海外遠征経験のないキングカメハメハ、ネオユニヴァースなども含めてよく知っていることは驚きだった。
日本馬の海外挑戦にはさまざまな意見がある。馬にとっては輸送や海外滞在でのリスク、馬主にとっては日本との賞金格差、種牡馬価値低減のリスク、JRAやファンにとっては馬券が発売されていないことなど、マイナス面が取り沙汰されることもある。また馬場がまったく違う競馬場で実績を残すことに大きな意義があるのか、という意見もある。だがファンにはなかなか見えにくいその挑戦の成果は、セレクトセールの場で確実に表面化している。日本の競馬関係者にとって、このレッドヴァース氏の言葉は、多少の外交辞令の部分を差し引いたとしても、うれしいものだった。