2006年10月1日
凱旋門賞ショック
日本馬の世界制覇への道
ディープインパクトの凱旋門賞挑戦は3着に終わった。 シロッコ、 ハリケーンランという強豪に先着しての3着だから 「よく頑張った」 という声もあるが、 フランスまで駆けつけたり、 深夜の放送を見ていた大多数のファンにとっては、 やはりショックな出来事だったに違いない。
それは単なるナショナリズムや希望的観測だけではなく、 競馬関係者ですら 「ディープインパクトなら凱旋門賞でも勝てる」 という確かな自信があったからだった。 1000万条件を勝てなかった帯同馬ピカレスクコートがGIIで2着になったことを考えても、 日本馬のレベルは欧米に肩を並べているか、 むしろ上回っていると考えるのは無理な話ではない。
ディープインパクトを生産したノーザンファームの吉田勝巳代表も 「日本馬が世界一強いと実感している」 と常々言っている。 それでもディープインパクトは負けてしまった。
もちろんレースには“あや”がある。 必ずしも最強馬が勝つわけではない。 それは百も承知でも、 日本競馬史上最強馬ディープインパクトだけは別格だと多くの人が思っていた。 ディープインパクトですら勝てないのなら、 あと50年間は日本馬が勝つことはありえないのではないか、 という絶望的な気持にもなってくる。 健闘を称えることも必要だが、 敢えて厳しく敗因を徹底的に追求することも、 今後の日本競馬の発展のために必要なのではないだろうか。
欧州の関係者が口にしていた不安材料は 「なぜトライアルを使わなかったか」 ということだった。 ハーツクライのキングジョージのときも 「一度使っていたらハーツクライが勝っていた」 という声が多かった。 もちろんこのぶっつけ本番の作戦は、 ハーツクライ、 ディープインパクト両陣営とも考え抜いて結論を出したことだった。
「いままでの例を見ても、 地元である程度仕上げてから遠征するのがベスト。 トライアルレースを使い、 本番へ向けて慣れない環境のなかで立て直すのはリスクが大きい」 という判断だった。 確かにジャパンCに来日する外国馬もぶっつけで臨む馬がほとんどで、 もちろん強さを発揮する馬もいる。
だが凱旋門賞当日に中山で行われたスプリンターズSを圧勝した豪州のテイクオーバーターゲットは、 トライアルのセントウルSを使って型通りの良化を見せた。 ハイペースで逃げてそのまま逃げ切ってしまうレースは、 同じく逃げたステキシンスケクンがしんがり負けを喫したことと比べても、 日本馬にはない次元の違うたくましさを感じさせた。
同馬は今年だけでも豪州から英国、 日本と渡って活躍している。 タフさという面でも日本馬との違いは大きかった。 トライアルを使うことが常に正解ではないが、 「使うと調整が難しくなる」 という理由でのぶっつけ本番は、 日本馬の“ひ弱さ”を示しているのではないだろうか。
また、 凱旋門賞は天候に恵まれて、 ディープインパクト向きの軽い馬場で行われた。 これをテレビなどでは 「もっとも心配されていた天気がディープインパクトに味方をしてくれた」 と表現していたが、 もし本当にディープインパクトの強さが天候で左右されてしまう程度のものだったら、 それもまた寂しい話である。 確かにロンシャンの馬場は雨が降るとひどくぬかるむ。 だがそれもまた競馬。 たとえ雨馬場でも強さを見せられるパワーが、 これからの世界制覇のためには必要不可欠なはずだ。
日本馬は瞬発力に極めて優れている。 だが“パワー”という面では欧米にも、 オセアニア、 香港にも見劣っているように思える。 日本競馬が本当に世界一を目指す気があるのなら、 馬場状態や負担重量もグローバル・スタンダードなものに作り変え、 それに合わせて生産界も配合、 育成を変えていく必要があるのではないだろうか。
私が生きているうちに何とか、 日本馬が凱旋門賞で優勝するシーンを見てみたい。