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馬産地往来

2021年8月25日

今年も大盛況だったセレクトセール

後藤 正俊

 毎年、同じような原稿を書いているが、今年もセレクトセールの2日間はすさまじい光景となった。開催終了後の吉田照哉・日本競走馬協会会長代行のインタビューを基に今年のセールを振り返る。
 1歳116億3300万円、当歳109億2300万円、2日間トータルで225億5600万円という史上最高の成績に関しては「キングカメハメハ産駒がいなくなって、ディープインパクト産駒も1歳の4頭だけという状況で、売上総額が下がるのはやむを得ないと思っていた。サイバーエージェントの藤田晋さんが来場することは聞いていて、千葉サラブレッドセールでも4億7010万円の高額馬を落札して頂いたので、今回もどれだけ買って頂けるのか期待はしていたが、まさか18頭で23億6200万円も購買してくれるとは。藤田さんが次々に高額馬を落札するので、買えなかった人が次の馬でまた競ってくれる。その『押し出し効果』があったのではないか。購買者登録も昨年より1割ほど増えて今年は750人くらいになった。新しい購買者は、1頭は買いたいと思って登録するので、あらゆる価格帯で競り合いになってくれた。馬を持ちたいと思ってくれる人がなんでこんなに増えているのかはよく分からないが、『ウマ娘』の影響はあったのかもしれない。以前に『ダービースタリオン』が流行った時にも購買者登録が増えたことがあった。その他にもいろいろな要素があり、それらが重なってこれだけの売り上げになったのだと思うが、まったく予想外の数字だった」と驚いた表情を浮かべながら、サイバーエージェント・藤田代表の参入と、そのサイバーエージェントの子会社である「Cygames」が販売する「ウマ娘プリティーダービー」を効果のひとつに挙げた。
 確かに総売り上げの1割を1人の購買者が占めたのだからその影響は絶大だったが、その藤田氏が参加していなかった7月27日の北海道市場セレクションセールでも史上最高の36億5070万円を記録したのだから、競馬界全体の好況ムードも追い風になっていることは確かだろう。コロナ禍は日本に限らず世界経済にも深刻な影響を与えているが、IT関連など一部企業は逆に売り上げを急拡大させている。初期からセレクトセールを支えてきたのはITバブルなどで業績を急拡大させた一部企業の経営者たちだった。その顔触れは時代の変遷とともに移り変わってきているが、今後藤田氏に対抗する新たな馬主が参入してきたり、海外からオンラインビッドでの購買が広がったりすれば、さらに激しい競り合いが展開されるようになるのかもしれない。「オンラインビッドは始めたばかりで今年はまだ参加は少なかったが、今後は5Gも整備されて通信も速くなるので臨場感のあるオンラインセリ市になるのではないか。だが海外となると身元確認も必要になるので、事務局が方法は考えてくれると思う」と今後の展開を期待した。
 今年のセレクトセールは「ポスト・ディープインパクト」「ポスト・キングカメハメハ」を占う意味も大きかった。これまでセールを支えてきたキングカメハメハ産駒はいなくなり、ディープインパクトは最終世代の4頭が1歳セールに上場されただけ。年々評価を高めてきたハーツクライも当歳セール上場馬が最後の世代となった。「ジャスティファイ、フランケル、サクソンウォリアーなど海外供用馬も含めて、いろいろな種牡馬の子が1億円以上で取引されていた。エピファネイア、ロードカナロア、キズナ、レイデオロなど上位は拮抗しているし、海外での交配や持ち込みも以前より多くなっている。ディープインパクトの後継種牡馬も適距離がバラエティに富んでいる。超切り札がいない時代になってくるのではないか。そのような傾向は生産者から見ればやりやすさもある。サンデーサイレンス、ディープインパクトと1頭の種牡馬に縛られてしまうと、考えがそこばかりに向いてしまい、面白味もなくなってしまう。日本馬のレベルは急速に高まっている。香港でもサウジアラビアでも大活躍している。その日本競馬の中でトップに立った馬はどれも世界最高レベルの種牡馬と言えるのではないか。それに加えて繁殖牝馬のレベルも極めて高くなっている。特にノーザンファームの繁殖は何百万ドルもするチャンピオン級牝馬もいる。セレクトセールでの売り上げを繁殖牝馬に再投資して、すごいレベルになっている。種牡馬だけでなく、繁殖牝馬の価値にも目が向けられた結果が今回の成績につながったのではないか」とポスト・ディープインパクトは群雄割拠の時代になることを予言した。
 最後に「この信じられないような売り上げも、コロナ禍でも競馬が1日も休まずに開催されたおかげです」と必死の対策で開催を続けた関係者に感謝の言葉を述べた。

※文中の金額は税別

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