2009年12月1日
カンパニー 想定外の種牡馬入り
高齢馬が活躍する要因とその功罪
09年秋のGIシーンの主役は、 8歳馬カンパニーだった。 毎日王冠でウオッカを破ったときまでは 「最強のGII馬」 という肩書きがさらに強化されただけだと思っていたが、 本番の天皇賞 (秋) でもウオッカを返り討ちにし、 8歳にして初のGI制覇。 さらに引退レースとなったマイルチャンピオンシップでは1番人気に応えて、 堂々のGI連勝で有終の美を飾った。
カンパニーは来春から社台スタリオンSで種牡馬入りを果たすが、 8歳秋を迎えるまで関係者の誰もが種牡馬入りなど想像もしていなかったことだろう。
いまは地方競馬の廃止・縮小などの影響でサラブレッド生産頭数は減少の一途をたどっているし、 人気種牡馬が200頭を超す多頭数交配を行えるようになってきたため、 種牡馬の需要は著しく低下している。
09年に全国で供給された種牡馬は280頭程度だったが、 このうち種付け料収入が採算ベースに乗っているのは3割以下だろう、 とも言われている。 GI勝ちがあっても種牡馬になれるとは限らない時代になってきているのだ。
ましてやカンパニーの父は、 現役時代は3戦1勝という無名種牡馬のミラクルアドマイヤ。 生まれながらに種牡馬になるには大きなハンデを背負っていた。 それを克服して種牡馬の "メッ" である社台スタリオンSでの種牡馬入りを勝ち取ったのだから、 "あっぱれ" の一語だ。
カンパニーが8歳にして本格化したのは、 極端に遅咲きだっただけではない。 近年、 高齢馬の活躍が目立ってきているのだ。 グレード制導入後、 00年までの8歳以上馬による国内平地重賞制覇は、 イナノラバージョン (84年アルゼンチン共和国杯)、 マイスーパーマン (94年関屋記念)、 フジヤマケンザン (96年金鯱賞)、 テンジンショウグン (98年日経賞) の4頭しかいなかった (いずれも8歳)。
だが01年以降は年々増加して07年、 08年は各3勝。 アサカディフィートは08年小倉大賞典を10歳で制している。 そして09年はカンパニーの3勝に加えてジョリーダンス (阪神牝馬S)、 ダンスアジョイ (小倉記念) と8歳馬が年間5重賞を制した。
これにはいくつかの要因が考えられる。 1つは預託可能頭数の増加で、 これまでは2歳馬を登録するために、 高齢馬はまだ余力が残っていても登録抹消されるケースがあった。 だがいまや一部人気厩舎を除くと登録頭数に余裕がある状況。 むしろ頭数不足で苦労している厩舎も多いだけに、 高齢馬でもなかなか退厩させなくなってきた。
調教設備、 技術、 獣医学の進歩も大きい。 トレセンだけでなく育成牧場にも坂路、 ウッドチップコース、 屋根付き屋外馬場などが設置されるようになり、 脚元への負担を軽減しながら負荷をかける育成・調教が行われるようになってきた。 脚部などの健康管理も科学的に行われているし、 治療や矯正のための手術も容易に行われるようになってきた。
またトライアルレースの整備やカテゴリーの細分化で、 無理をしないローテーションが組まれ、 不向きな条件のレースに出走しなくなってきたことも、 競走寿命を延ばしている一因になっている。
馬産地にとって高齢馬の活躍は、 素直に喜べない面があるかもしれない。 高齢馬がいつまでも現役で頑張っていたら、 それだけ生産馬の需要が低下する恐れがあるからだ。 だが欧米競馬の人気凋落の最大要因はスターホースの早期引退にあるといわれており、 ファンに馴染みの深い馬が長く現役生活を送ることは、 馬券売り上げにはプラスに働くはずだ。
種牡馬入りしたカンパニーにとって、 今後のサバイバル競争も決して楽ではないだろうが、 一族みんながタフで丈夫という稀有な血統は、 サラブレッドの "高齢化社会" にとって貴重な役割を果たすはず。 「ガラスの脚」 から 「鋼の肉体」 へ--。 "新種牡馬" カンパニーにはサラブレッドのイメージを覆す働きが期待されている。