2007年2月1日
地方競馬の存在意義とは?
地方らしさは「脱JRA」から
生産者が聞いたら 「何をいまさら」 と憤るかもしれないが、 売り上げ不振に苦しむ地方競馬の関係者を取材していると 「もしアラブがいてくれたら」 という言葉を何度も耳にする。
今春、 日本で生産されるアングロアラブは限りなくゼロに近くなる。 たとえ生まれたとしても血統登録されることはなさそうだ。 全国のアラブ競馬はあと3~4年で完全に消滅してしまうだろう。
アラブが衰退したのは地方競馬主催者サイドの“都合”だった。 「スピードの遅いアラブのレースは迫力がなく、 ファンの共感を得ることができない」 という意味不明な廃止理由は、 「サラブレッドを増やせばJRAは認定競走を多く設置してくれるし、 交流レースも多く開催できる」 というJRAから資金を引っ張るための口実に過ぎなかった。 また、 交流レースを行えば武豊騎手などの人気騎手が騎乗するので来場者が増えるという目論みもあった。
確かにJRAから多くの資金を引っ張ることには成功した。 だが、 交流重賞ではその資金どころか、 地方競馬の貴重な賞金もJRA馬に根こそぎ持って行かれた。 JRA認定競走を勝った能力の高い2歳馬は多数がJRAに移籍してしまい、 地方競馬でももっとも盛り上がるはずの3歳クラシック路線は 「敗者復活戦」 に成り下がってしまった。 それは古馬も同様で、 地元のトップクラスの馬たちがJRA500万条件馬に歯が立たないのでは地元重賞もまったく盛り上がらず、 ファン離れを起こしてしまった。 武豊騎手の人気はいまでも健在だが、 他の騎手の場合はほとんど入場人員には影響しなかった。
そして何よりも大きな問題は、 サラブレッドは脚元が弱いということだった。 頑強なアラブは年間30走近くを走り続けても、 何年間にもわたって活躍を続けたが、 サラブレッドは20走が精一杯。 しかもそれを複数年続けることも難しい。 かなり能力の劣る馬ならスピードがないので故障は少ないが、 地方競馬の小回りで、 クッション層も削れてしまっている状態の悪い馬場でレースをしていると、 スピードのある馬ほど故障してしまう。
高額賞金のJRAなら、 故障で休養しながらでも何走かできれば預託料を支払うことも不可能ではない。 だが地方競馬は賞金よりも出走手当の方が大きいほどなので、 休んだ分を取り返すことなどまず無理。 長期の休養はよほど能力が高い馬以外は即引退につながってしまう。
そしてそのことが地方競馬をさらに凋落させる最大要因にもなった。 出走頭数不足が深刻になってきてしまったのだ。 地方競馬の人気のない最大の理由は 「出走頭数が少ない」 「いつも同じメンバー」 という点にある。 アラブ競馬を廃止したことで1頭当たりの出走回数が減り、 この“つまらなさ”を大きく増長させてしまったのだ。
いまになって地方競馬関係者は間違いに気付き始めてきた。 JRAに追従した競馬を行っていくことは、 じつは破滅に向かっていたのではないかということを。 「良質のサラブレッドを扱っていれば、 いずれはJRAの大舞台へ、 さらに世界へとつながっていく」 というのはあくまで理想論であって、 実現できているのはビッグレッドファームという大牧場が外厩となって鍛え上げたコスモバルクのみ。 現実はそんなに甘いものではない。 JRAと同じ競馬をやろうとしたのでは、 規模も資金力もまったく違うJRAに飲み込まれてしまうだけ。 JRAと地方競馬が一本化されるメドが立たない以上、 地方競馬は“地方競馬らしさ”を追及していくべきだったのではないだろうかと。
もっとも地方競馬らしかったアラブ競馬は、 いまから復活させようにももう種牡馬も繁殖牝馬もいなくなっており、 その復活は不可能だ。 繋駕(けいが)や障害をいまから始めるのも無理だろう。 クォーターレースはコースを取るのが難しいし、 超長距離戦は出走回数増加には向かない。 地方競馬らしさを新たに見つけるのは難しいが、 各主催者が知恵を絞ってJRAからの脱却を考えていかなければ、 地方競馬の存在意義はどんどんと薄れて行ってしまう気がする。