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馬産地往来

2016年4月25日

頑張れ! ホースウーマン

後藤 正俊

 JRAでは16年ぶりの女性騎手となった藤田菜七子騎手(18=美浦・根本厩舎)が大きな話題を集めている。この記事を書いている3月末時点では、地方で2勝を挙げているもののJRAでは未勝利だが、話題性もあって騎乗馬が比較的多いだけに、この号が届く頃には念願の初勝利を挙げている可能性が高そうだ。
 JRAの女性騎手はこれまで増沢(旧姓・牧原)由貴子が地方を含め40勝、細江純子が14勝、田村真来が地方を含め10勝、押田純子が2勝、板倉真由子が1勝、西原玲奈が地方を含め24勝と6人がいたが、「活躍した」とは言えない成績のまま引退した。地方競馬では50人近くの女性騎手がデビューしており、韓国も含めて600勝以上を挙げた名古屋の宮下瞳騎手(2011年引退)など、ある程度の活躍をした騎手はいたものの、トップジョッキーというほどの地位までは築いていない。
 一方海外では、ベルモントS優勝などの実績で競馬の殿堂入りを果たした米国のジュリー・クローン騎手、そのクローン騎手の女性通算勝利数を抜いた米国のロージー・ナプラヴニク騎手、英国で年間100勝を記録したヘイリー・ターナー騎手、2012~13年シーズンのニュージーランドリーディング3位で昨年は短期免許でJRAで騎乗したリサ・オールプレス騎手など、男性顔負けの活躍をしている女性騎手がいる。歴史・文化の違いはあるだろうが、日本女性は欧米女性に比べると体格面で騎手に向いているだろうし、日本の女性アスリートは男性以上に世界的な活躍をしている。日本から世界的な女性騎手が誕生する可能性は十分ありそうだ。
 藤田騎手の場合、競馬学校を卒業したばかりの新人騎手なのだから、男女関係なしに、技術的にはまだまだ足りない部分が多くあるのは仕方がないこと。だからこそ減量特典もある。実力に見合っていない注目のされ方は「かわいそうだ」という意見もあるが、プロのアスリートである以上、人気も仕事の一部。競馬人気を考えても、注目を集める騎手の登場は大歓迎だ。そして彼女の活躍は、同じく競馬界で働く女性たちにとって大きな励みにつながるはずだ。
 馬産地では多くの女性が牧場スタッフとして働いている。特に、子馬を扱う繁殖スタッフは人間の子育てと同様に「母性」が重要であるため、女性に向いている仕事だとも言われている。以前は繁殖スタッフも「子馬のうちから人間に服従することを教え込まなければいけない。やってはいけないことを教えておかないと、大きくなって人間が危険な目に遭う」という考え方から、体罰を含めた厳しい馴致を行うスタッフが多かったが、かなり考え方が変わってきた。馬に手を上げることはせず、辛抱強く、そして優しく教え続けることが重要視されるようになってきた。
 それは育成でも同様で、例えば騎乗馴致にしても、以前は初めて人を乗せたことで暴れる馬をまるでロデオのように丸馬場で乗りこなして教え込む姿が見られたが、いまは馬房の中でじっくりと時間を掛けて騎乗することに慣れさせている。気性の激しい馬に対しての育成調教も、以前は力ずくで抑え込もうとしていたが、いまは「気性の激しさも個性」と認めて気性の強さを生かしながら、騎乗者とコンタクトが取れるように時間を掛けて教えている。「500kgもあるサラブレッドを女性の力で操るのは難しい」という考え方が「500kgの馬を抑え込むのは男性でも女性でも腕力ではできない。技術で対応すべきだ」と変わりつつある。技術面を重要視すれば、女性でも育成スタッフとして十分に働けるはずで、例えばディープインパクトの育成時代を担当していたのはノーザンファームの女性育成スタッフだった。
 最近の脳科学では「男性脳」と「女性脳」の違い、役割分担が明確になってきており、1つのことを短時間に集中して行うのが男性脳、複数のことを同時に冷静にこなしていくのが女性脳の特徴だと言われている。馬を扱う仕事は、その両方が必要だろう。騎手の仕事は、レースだけを考えれば男性脳が優先されるかもしれないが、その馬のレースキャリア全体を考えれば女性脳も重要だと言えるかもしれない。
 それでもまだ、競馬界は「男性社会」という伝統が色濃く残っている。牧場の女性育成スタッフは少ないし、起業する女性牧場主や女性マネージャーもほとんどいない。JRA厩務員の女性比率は2%にも満たない。競馬界の男性社会に風穴を開けるためには、実績で示していくしかない。その意味でも、注目されている藤田騎手の技術向上とその活躍を願っている。

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