2009年6月1日
ダービーを彩った騎手と牧場
名騎手の技術と小規模牧場の努力
40年ぶりの不良馬場のなかで行われた第76回日本ダービーは、 皐月賞で1番人気に推されながら14着に大敗したロジユニヴァースが直線内から抜け出して圧勝。 2着にも皐月賞2番人気で13着だったリーチザクラウンが粘り込んで、 ドラマティックな“リベンジ”が実現された。
ロジユニヴァースは皐月賞で体調を崩していたが、 萩原師が短い期間に見事に立て直した。 状態に完璧な自信がなかっただけに横山典騎手はスタミナロスを最小限に防ぐように終始内ラチから離れず、 直線でも内を進んだリーチザクラウンのさらに内から差す徹底ぶりだった。 各馬が不良馬場でスタミナを消耗するなか、 最短距離を通った横山典騎手の好騎乗が勝利をもたらした。
武豊騎手も見事だった。 リーチザクラウンの皐月賞の敗因は明らかに“折り合い”だった。 2ハロン距離が延長されるダービーでは、 その折り合いがさらに大きな課題になる。 前に馬がいると追いかけてしまう気性なのでダービーウィークのインタビューでは“逃げ宣言”をして他馬をけん制すらしていた。 ところがレースはジョーカプチーノがハイペースで逃げる展開に。 それでも慌てず、 ジョーカプチーノを追いかけてしまわない程度の距離を保ち、 なおかつ後続に突付かれない程度のペースを保ちながら離れた2番手で実質的な“単騎逃げ”を披露した。
長くJRA競馬を支えている東西の名騎手、 横山典騎手、 武豊騎手の技術と“顔”がこの復活劇を生んだのは間違いない。
単に結果だけを見ると、 オークスに続いてのノーザンファーム~社台ファームのワン・ツー・フィニッシュで、 これでノーザンファームはダービー6勝目と、 相変わらず社台グループの強さばかりが目立ったように思えるが、 その裏では地味な努力、 高度なテクニック、 さまざまな駆け引きが存在していた。
3着以下の馬の生産牧場にもいろいろな人間ドラマがあった。 3着アントニオバローズを生産した新冠・前川隆範牧場は夫婦2人で水田をやりながら生産を行っている小規模兼業牧場。 JRA重賞制覇はアントニオバローズのシンザン記念が創業初のことだった。 夫婦経営だと滅多なことで留守にできないが、 何とかやり繰りをして2~3年に一度は繁殖牝馬の購入のため海外へ出かけている。 アントニオバローズの母リトルアローもキーンランド繁殖牝馬セールで手に入れた馬だった。
「少ない予算だったのに、 父キングマンボ、 母はノーザンダンサーの妹という素晴らしい血統の馬を手に入れることができました。 やはり自分の足で探さないとダメだと痛感しました」 と語る前川さんは、 一昨年、 昨年も米国に出かけて繁殖牝馬の更新に力を入れている。
同じことは13着に敗れた2歳王者セイウンワンダーを生産した新ひだか町・筒井征文牧場にもいえる。 繁殖牝馬はわずか4頭だけだが、 セイウンワンダーの母セイウンクノイチも含めて3頭がサンデーサイレンス産駒で、 いずれも繁殖牝馬セールなどで購入した馬だ。
「ブルードメアサイアーがサンデーサイレンスというだけで注目してくれる購買者がいるのでセリ市でも有利な材料です。 高額な種付け料を支払ってサンデーサイレンスと交配したのは、 その牝系が極めて優秀で自信を持っているということ。 牝系の良さも大きな魅力です」 と筒井さんは戦略を明かした。 実際、 セイウンワンダーは1歳セレクションセールでJRAが高い評価をして落札。 さらにブリーズアップセールでは最高価格馬になったように、 セリ市での強さを見せていた。
小規模生産牧場というだけで“地味”なイメージを抱いてしまうものだが、 それは偏見でしかない。 小規模だからこそ繁殖牝馬や交配種牡馬に資金をかけること、 配合の研究を重ねることが可能になる場合だってあるし、 繁殖牝馬頭数を絞ったことにより筒井牧場のように1頭当たりの放牧地の面積が大規模牧場より広くなっている牧場もある。
社台グループの強さと同時に、 小規模牧場の意地、 誇りも日本ダービーを彩っていた。