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馬産地往来

2018年8月25日

驚きの進化を遂げるセレクトセール

後藤 正俊

 「昨年があまりにもすごい売り上げだっただけに、さすがに今年は前年超えが難しいのではないか」。セレクトセール2018開幕前に、ある関係者がそんな話をしていた。私は「セレクトセールを支えているディープインパクト、キングカメハメハも種牡馬として高齢の部類に入ってきて、産駒の希少性が増している。特にディープインパクト産駒は今年、欧州でサクソンウォリアー、スタディオブマン、セプテンバーと活躍馬が相次いでいるので、海外バイヤーによる購買も増えるはず。売り上げはさらに伸びる」と返答した。結果として、売り上げが上昇した部分だけは私の予想が当たっていたのだが、その内容はまったく外れていた。セレクトセールは毎年、予想のはるか上を行く進化を遂げている。
 昨年は「イルーシヴウェーヴの2017」(牡、当歳)が5億8000万円、「ドナブリーニの2017」(めす、当歳)が3億7000万円という超高額になったことが売上総額を大きく押し上げた。だが今年はもっとも高額だったのが「リアアントニアの2018」(牡、当歳)の2億9000万円で、昨年トップの半分の価格に止まった。「希少価値が高まりさらに高騰する」と予想していたディープインパクト産駒の平均価格は1億911万円(前年1億3706万円)、キングカメハメハは8513万円(同6206万円)。キングカメハメハは2300万円上昇したが、ディープインパクトは逆に2800万円下降した。ディープインパクトは昨年2頭の超高額馬が平均価格を押し上げていたとはいえ、中間値は昨年9600万円で、今年9400万円と差はない。「希少価値が高まる」「外国人購買が増える」という傾向はほぼ見られなかった。
 高額馬ランキングを見ると、昨年は当歳、1歳ともトップ4をディープインパクト産駒が占めていたが、今年は当歳2位タイにドゥラメンテ産駒、4位にモーリス産駒、1歳2位にキングカメハメハ産駒、3・4位にハーツクライ産駒が入った。ドゥラメンテ、モーリスは当歳世代が初年度産駒の新種牡馬。この2頭はもちろん大きな期待をかけられ未知の魅力にあふれているが、ディープインパクトでも産駒デビュー前のセリ市での取引は慎重さが見られたように、セリ市では実績が最重要視されるのが常だった。ドゥラメンテ産駒の平均価格は4511万円、モーリス産駒は4185万円で、すでに初年度産駒からクラシックウイナーを送る素晴らしい実績を示しているロードカナロア産駒の当歳平均4362万円、オルフェーヴル当歳4411万円とほぼ差のない成績だったことは「産駒デビュー前は様子見」というセリ市の常識を覆すものだった。ハーツクライ産駒はこれまで1億円超えがそれほど多くなかったが、今年は2頭が2億円以上で落札され、1億円超えは計6頭を数えた。ハーツクライはリーディングサイアー成績で常に3~4位の成績を続ける安定感があるものの、一般の競馬ファンから見るとディープインパクトに比べて「渋い」印象。だが今年のセレクトセールでは理由ははっきりとしないものの、購買者の人気が集中した。特に1歳の平均価格は8367万円で、キングカメハメハの8400万円とほぼ互角だった。
 これらの傾向についてセール終了後にインタビューに応じた吉田照哉氏は「特に1歳セールは、購買者が馬の出来をよく見るようになった。ディープインパクト産駒だけでなく、良い馬は激しい競り合いになって高額になる。スクリーンヒーローやブラックタイド産駒でも1億円を超えたのは、日本馬のレベルがそれだけ高まってきたということだし、手入れやハンドリングも格段に進歩している。1頭の種牡馬だけが注目されているのではないというのが嬉しかったね。売却率も1歳が90.6%で、当歳が88.7%とすごい数字になった。低いお台から競り合って、お台の3~4倍になっていくセリ本来の姿だった。外国人購買者はかなり多く来てくれていたけれど、みんな高くて買えなかったようだ。サクソンウォリアーのように、牝馬を持って来て日本の良い種牡馬と種付けして、向こうへ持って行くというパターンが増えるのではないか」と分析していた。
 日本の種牡馬界を支えてきたディープインパクトは、父が死亡した時と同じ16歳になった。体調不良で種付け頭数を制限しているキングカメハメハは1歳年上の17歳だ。どちらも6~7年後には種牡馬生活からの引退を考えなければならない年齢に達する。日本の生産界にとってその「2025年問題」が大きな課題だと感じていたが、それも杞憂に終わりそうであることを予感させる、今年のセレクトセールだった。

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