2019年8月26日
セールの盛況を呼んだ“期待”
第22回の今年もまたすさまじい結果となったセレクトセール。初日の1歳セールが終了したのは午後7時20分でテレビ放送枠に入りきらず、終了後は関係者のみならず取材陣も、結果への驚きとともに疲れ切った表情も浮かべていた。2日間の合計は史上最高の205億1600万円。1歳セールの落札率92.9%、当歳セールの平均価格5000万円超えなど、記録ずくめのセールとなった。
セール2日目の朝には、種牡馬キングカメハメハの引退が報道された。今春は体調不良で種付けを行っていなかったことから、引退はある程度は予想されていたことだったが、改めて発表されるとやはりショックは大きい。腰などの不安で今春の種付けを中止したディープインパクトは、セレクトセール後の7月30日に頸椎骨折のため死亡したことが発表された。日本の生産界を支えてきた、そしてセレクトセールの売り上げを支えてきた大種牡馬2頭のアクシデントは、セール当日時点でディープインパクトは「今後への不安」という形ではあったが、購買者心理に影響を与えたことは確かだろう。
キングカメハメハ産駒は1歳の「ジンジャーパンチの2018」(牡)が2億9000万円、「ベルワトリングの2018」(牡)が2億5000万円、最後の世代の産駒となる当歳も「ラスティングソングの2019」(牡)が1億9000万円、「ソーメニーウェイズの2019」(牡)が1億7000万円で落札された。9頭が落札されたディープインパクトの当歳に至っては、平均価格が1億8800万円という驚異的な価格となった。
だが全体の売り上げを押し上げたのはむしろ、2大巨頭の後継を担う新進種牡馬に対しての期待の大きさだったのかもしれない。セールを勢いづかせるために初日最初の上場となったのはドゥラメンテの初年度産駒「ルモスティの2018」(牡)で、主催者の思惑通りに激しい争奪戦となり1億2000万円での落札となった。ノーザンファームの吉田勝己代表は「あれが今回のセールの流れを作りましたね。上場番号1番に良い馬を置くのはいつもやっていることですが、今年は下見の段階から多くの方が訪れていたので、良い馬を全体的に前の方に入れていたんです。新しい種牡馬は(購買者が)みんな好きですね。確かに成功していますし」と上場者側も未知の魅力あふれる新種牡馬への期待が高かった。すでに実績を残しているロードカナロア、ルーラーシップ、2歳新種牡馬のキズナ、エピファネイアらはもちろんだが、まだ産駒がデビューしていないドゥラメンテ、モーリス、ドレフォン、リオンディーズ、キタサンブラック、ミッキーアイルらの産駒がセールを下支えした。
忘れてはならないのがハーツクライで、ディープインパクトの1歳年上、キングカメハメハの同期だからもうベテランの域に達しているはずだが、今回のセール上場馬はこれまで以上に馬体の良さが目立っていた。初日は「シンハディーパの2018」(牡)が2億7000万円、初日最後の上場となった「マラコスタムブラダの2018」(牡)が2億3000万円。2日目トップで登場した「マラコスタムブラダの2019」(牡)も全兄に負けじと1億6000万円、「コーステッドの2019」(牡)も1億6000万円で落札された。現役時代も本格化したのは4歳秋からと奥手の競走成績だったので、種牡馬としても「奥手」という特徴があるのかもしれないが、世代を重ねるごとに配合の適性が判明してきたとも考えられる。
2日目終了後に記者の囲み取材に応じた日本競走馬協会の吉田照哉会長代行は「外国人購買者とも話しましたが、こんなセールは世界のどこにもないと言われました。一番良い馬をセリに出すというノーザンファームの取り組みも素晴らしいです。これだけ価格が高くなるのは、日本競馬の運営が素晴らしく、若いファンも競馬場に来てくれて、高額賞金に支えられているからですが、そんな採算を度外視して馬を持ちたいという馬主もいます。馬主にはやめられない魅力があるということです。そういう馬主は調教師に任せるのではなく、自分で馬を選ぶのが楽しいのでしょう。今年は当歳もよく売れてくれましたが、私が見ても当歳の善し悪しはなかなか判らないのに、欲しい血統の馬は早くに買っておきたいという心境なのかもしれません。実際、当歳取引馬はよく走っていますからね」と、一番の馬が欲しい、クラシックを勝ちたいという馬主の欲求がセールを支えている要因だと分析した。
また「キングカメハメハの引退、ディープインパクトの種付け中止(セール当日時点)は残念なことですが、馬は人間よりも世代交代が早いですから仕方がありません。私は71歳ですが、ボールドルーラー、ノーザンダンサー、ミスタープロスペクターの時代などを経験してきています。馬は17、18歳になると衰えてきて、いろいろなところに体調不良が出てくるものです。サンデーサイレンスやディープインパクトほどの馬はなかなか出てこないかもしれませんが、キングカメハメハにもディープインパクトにも多くの後継がいるので、必ず何か出てきますよ」と2大種牡馬の産駒が少なくなる来年以降にも不安を感じていない気持ちを語った。
※文中の金額は税別、コラム執筆日は7月31日。