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日高便り

2007年6月1日

07年春 馬産地点描

新時代へ向け景気回復の胎動も

北海道事務所・遠藤幹

「一部上場企業の業績は5期連続の増収増益を記録」
「完全失業率は4%を割り込み、 3・8%まで低下」
 最近の新聞紙上には景気の回復を伝える記事が数多く見受けられるようになったが、 私が見る限り、 馬産地の実体経済は一向に回復しているとはいい難い状況が続いている。 それでも最近、 大手牧場の方とお話しした際には、 「馬産地にもお客さんは確実に戻りつつある」 という言葉を耳にした。 ひそかに馬産地の景気回復の胎動も日々大きくなってきているのだろうか。
 最近の馬産地での見聞を点描風に眺めてみたい。
  ひだかトレーニングセール
 5月21、 22日の2日間にわたって開催された 「ひだか東農協」 主催のトレーニングセールは、 残念ながらやや低調な結果となってしまった。
 150頭の上場馬中、 66頭が売却され、 売却率は44%、 売却総額は4億8600万円を記録したが、 昨年より40頭多く上場されたにもかかわらず売却数は2頭減少して売却率は17%ダウン、 売却金額でも2500万円下回ったのだった。 同時期に行われた千葉のセールが5000万円を超える高額馬も出現して盛況裡に終了したのに比べ、 こちらは盛り上がりを欠いた。
「購買登録者数が伸び悩んで、 2日間開催によって購買者も分散した。 大手馬主のイベントと重なった影響もあった」 などの分析記事も目にしたが、 現場で見聞した際には 「ちょっと浦河は遠いなあ」 といった声も聞かれた。 これといった目玉商品がないなかで、 千歳空港から2時間半という地理的条件が大きくマイナス要因になった感もある。 今一度、 購買者の目線、 ニーズにあった市場運営を検討しなければならないのかもしれない。
  牧場をたたむAさんのこと
「牧場の売却が決まったので、 今年種付した牝馬は、 よその牧場に移すことになったんだ」
 古くからお付き合いのある牧場主Aさんが言った。 Aさんの父親が亡くなってから10年余り。 経営を引き継いでからの苦闘ぶりを私はよく知っている。
「親父が死んだら、 農協の職員が来て、 お前のとこには4000万円の借金があるって……。 まさか、 そんなにあるとは思わなかった。 この借金を何とかしなきゃと思ったさ」
 Aさんは馬車馬のように働き、 奥さんもパートに出て、 負債は1000万円程度にまで圧縮した。 この不況下で、 繁殖牝馬4、 5頭の小牧場が、 10年弱で3000万円を返済するのは並大抵ではなかったと思う。
「結構頑張って借金返したから、 牧場を売っても少し余分にお金が入りそうだし、 買っていただいた方の牧場で、 そのまま社員として働けそうなんだ。 今度は休みもあるから、 家族で温泉にでも行こうかな」 と、 Aさんは柔和な表情を浮かべて微笑んだ。
  Bさんの結婚披露パーティ
 地元の牧場主Bさんが結婚お披露目パーティを開き、 集まった友人、 知人から祝福を受けた。
 祝杯を飲み干し、 顔をやや赤くしたBさんは言う。
「どんなに広告を出したとしても、 1頭の走る馬にはかなわない。 何とか自分の牧場から走る馬を出したいんです。 僕は馬が好きだし、 道営競馬の小さなレースでも、 自分の生産馬が勝つ姿を見ると、 疲れが吹っ飛びます。 走る馬が出ればお客さんにも喜んでいただけるし、 僕も従業員ももっと頑張れます」
 Bさんが父親を継いで牧場の社長となって3年余り。 いい顔になったなぁと私は思った。
 このパーティには、 日高地区や胆振地区のBさんの友人20人ほど (20代後半から30代半ばの次代の牧場主たち) が集っていた。 牧場経営を指揮する彼らの父親は馬産において成功を収め、 今は各団体の長や理事としても、 馬産地の指導的立場にある。 その子息である彼らはバブル景気の崩壊後に牧場に戻って父親の片腕として働き、 皆相応の苦労を重ねた世代である。
 その顔ぶれは多士済々だが大変仲が良く、 団結力もあるのが見て取れる。 おそらく10年後、 15年後の馬産界を背負って立つであろう面々だが、 その若さやバイタリティ、 大きな可能性に圧倒されたのは私だけではないだろう。 彼らが陽気にBさんを祝福するのを見て、 馬産地の未来は明るいかなとも感じた。
 馬産地も統合や再編が進み、 規模を拡大する牧場がある一方で、 馬産から撤退する牧場も多い。 日本軽種馬協会の会員数はこの10年で690人、 32%も減少して1500人を割り込んだ。
 プラス要因、 マイナス要因が交錯する生産界。 かつてのように生産者全員が好景気に沸くということだけはなさそうだが、 それでもこの国に競馬がある限り、 競馬産業は進展し、 確実に新時代を突き抜けていくことだけは間違いなさそうだ。

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