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2017年8月25日

セレクトセール、セレクションセールが終了して

北海道事務所・遠藤 幹

7月10、11日の2日間にわたって開催されたセレクトセールは、上場馬462頭のうち406頭が落札され、落札総額は173億2700万円、落札率は87.9%、平均価格も4268万円に達し、昨年記録した売り上げレコードを、23億円超も更新した。セリの驚異的な売り上げはその後も続く。7月18日に開催されたHBA(日高軽種馬農協)主催のセレクションセールは、上場馬226頭のうち184頭の落札(落札率81.4%)、落札総額28億8020万円、平均価格1565万円と、こちらも大盛況のうちに終了した。
 それにしても、私を含め関係者の想像をはるかに超える7月のセリ成績だったのではないだろうか。バブル景気の再来では?と、この活況をとらえる向きもあるようだが、果たしてどうか。バブル崩壊から長らく続いた馬産地経済の低迷……。10年前のことを思えば、今日の隆盛はとても想像できるものではない。駆け足ではあるが、この間の馬産地の景況を振り返ってみたいと思う。

 バブル景気に沸いた1990年、血統に関係なく牡が生まれれば、牧場の「言い値」は最低「1000万円」と言われていた。市場の信頼性はあまり高くなく、良い馬は当歳で庭先取引されていた時代だ。馬の値段も高かったが、景気の過熱とともに種付料や飼料、資材に至るまで軒並み値上がりし、生産費の上昇が続いた。
 そのバブル崩壊と時を同じくして、サラブレッド産業の長い低迷が始まる。1997年の北海道拓殖銀行の破綻や2002年のHBA秋セリの大不振(落札率10%台半ばだったと記憶する)あたりの産地風景が、今も私の記憶に生々しい。その後も地方競馬の相次ぐ廃止など、馬産を取り巻く状況はさらに厳しくなり、生産者の転業や廃業も相次いだ。
 生き残りをかけた生産者は、生産コストの削減に取り組み、一方で預託馬を増やすなど、安定的な牧場経営を続ける努力を行っていった。種牡馬の種付料も全体的には大きく値下がりし、受胎条件種付料が主流となり、生産に失敗しても再度種付けできる「フリーリターン制度」が導入される(01年)など、コスト低減に向けた動きが強くなった。
 一方で、セレクトセール(第1回は1998年開催)に代表される新市場が誕生する。市場上場に向けたコンサイナー業が勃興し、透明性の高い市場で、高品質の馬を公平に入手できる仕組み作りが進んだ。競馬主催者の意識改革も進み、ファンに楽しんでもらえる魅力ある番組作りがなされ、ITと親和性の高い「馬券のネット販売」が、売り上げの大きな部分を占めることとなり、新たなファン層の拡大も進んだ。
 2008年に勃発したリーマンショックの影響で、09~10年にかけて生産馬の販売不振に苦しんだ時期もあったが、11年以降は前年比プラスの基調の中で、産地景気は回復していった。最近では新しい購買者層の出現が、市場を大変活発なものに変貌させている。
 この30年の歴史の中で、昨年今年と大変勢いのあるサラブレッド市場が出現した。しかしながら、今年これほど売れたからといって、かつてのバブル期のような浮かれた気持ちでいらっしゃる生産者はいないと思う。馬産地不況と向き合いながら、地道な努力を積み重ねてきた結果が、今の牧場経営につながっている。この姿勢でいる限り、産地経済は、たとえその歩みはゆっくりでも、永続的に成長し続けることができると私は思う。

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