2020年4月24日
種付けが佳境に入った馬産地
新型コロナウイルスの感染拡大で、世の中の空気が一変しつつある。2月末に北海道でコロナ感染者数が急増した時、特に新ひだか町で2名の感染者が出たことが報道された時には、馬産地にも相当な緊張が走った。幸いなことに北海道知事の「緊急事態宣言」のアナウンス効果もあって、こちらでのコロナ禍はかなり鎮静化したのだが、ここにきての東京を始めとする首都圏での感染者の急増は、極めて深刻な状況にある。ここは、しっかり国や自治体の要請に従って、各自ひとりひとりが徹底した感染予防に努めるしかないように思われる。日本でのコロナ感染症の拡大がこれ以上にならないことを祈りたい。
種付けシーズンも佳境に入り、繁殖牝馬を乗せた馬運車が多数国道を行き来するのを目にする季節となった。出産・種付け繁忙期は、生産者もてんてこ舞い。目の前の仕事に没頭する日々が続き、憂鬱な世相をしばし忘れさせてくれる。
今年の種牡馬の申し込みの状況を見て特徴的に思えることは、受付満口(以下「ブックフル」と表記)の馬が例年以上に多いことである。年間4000を超える種付数を誇る社台スタリオンステーションの有力種牡馬が、例年同様に「ブックフル」が多いのは当然としても、日高地区の種馬場も軒並み「ブックフル」種牡馬がドンと増えた感じだ。
データを見てみよう。手元の資料の集計では、2018年には「ブックフル」種牡馬は16頭、19年には17頭だったものが、本年は29頭にも上り、前年比で12頭増加した。19年は「ブックフル」種牡馬17頭で2972頭の牝馬と種付けし、1頭あたり175頭の牝馬と種付けした計算となる。この数字を適用すれば、今年はこの29頭で5000頭を超える牝馬との種付数となり、これは種牡馬の総種付数のおおむね45%を占める数字となる。
昨年まで長い景気拡大局面にあった馬産地では、大手牧場の繁殖牝馬数と牝馬を預託する新規オーナーがじわじわ増加し、皆さんこぞって人気種牡馬の種付けを志向した。そういった図式が30に迫る「ブックフル」発表の種牡馬をどうやら作り上げたようなのだ。私が所属するブリーダーズスタリオンステーションでは、コパノリッキー、シュヴァルグラン、リオンディーズの3頭が既に「ブックフル」となった。その一方で、種付数を大きく減らす種牡馬も例年以上に増えそうで、人気種牡馬とそうでない種牡馬の二極化が今まで以上に進みつつあるようだ。
明らかに暖冬だった馬産地にあって、今年の種付けの消化も例年以上に早まっていきそうだ。古い資料をひも解いてみると、ブリーダーズスタリオンステーションでは、1995年には、3月中に種付けした牝馬数は48頭(種付け開始2月26日)と、その年の総種付頭数802頭の6%だったものが、2004年は183頭(種付け開始2月1日)と、総種付数882頭の21%まで上昇した。それが昨年19年には347頭(種付け開始2月3日)と、総種付数1093頭の32%を占めるに至ったのだ。種付け最終日も、1994年は8月3日であったものが、2005年は7月14日、19年は7月11日と、切り上げも相当に早くなった。
人気種牡馬を募集と同時に申し込んで種付けのワクを確保し、さらに繁殖牝馬の種付け適期に種馬場側からはじかれないように、早めの種付けと生産を志向する生産者の思惑がそこには透けて見える。その早生まれの産駒の血統や馬体が優れていれば、セレクトセールへの上場も視野に入れた販売戦略が取られることとなろう。
そのためにも、早くこのコロナ禍が終息してほしいと願うばかりだ。無観客の競馬も通常の開催に戻り、一日も早く健全な娯楽を提供できる、いつもの競馬に戻ってくれることを祈りたい。
※コラム執筆日は4月2日