2018年6月25日
好況に沸く産地経済の一方で
5月22日、札幌競馬場で行われた日高軽種馬農協主催のトレーニングセールは、26度を超える初夏の陽気の中、熱気にあふれる取引が続いた。さすがに過去最高を記録した昨年実績は少々下回ったとはいえ、228頭の上場馬中151頭の取引が成立し、売却率は66%台を記録した。また、売却総額は11億6986万円、平均価格も775万円(総額、平均ともに税込み)と、まずは合格点を与えられるセールとなった。
正直に申し上げれば、血統的に魅力のある馬は、既に前年売買が成立しており、セールのカタログだけを見れば、そうそう売れ筋血統ばかりの馬ではない。しかし、当日会場で私が見る限りでは、調教時計が優秀な馬、馬体に魅力ある馬は、まず間違いなく声がかかっており、せり上げに勢いがつけば、価格は二次曲線のように上昇していった。最高価格を記録した馬はバンブーエールの牡馬で、税込み4860万円! 秀逸な調教時計とボリュームある好馬体が目についた一頭だった。
当協会主催のセレクトセールや、日高軽種馬農協主催のセレクションセールといった、本年のサラブレッド取引の旗艦セールを控え、軽種馬産業の今年のトレンドを占うトレーニングセールは、JRAブリーズアップセール、千葉サラブレッドセールも含め、いずれも上々の成果を収めた。馬産地は、一昨年からの好調を今に持続している感があり、今後のセールにも希望が持てる結果となった。
当社では、競走馬保険を中心とした保険代理店業務も行っているが、今年は、例年にも増して当歳馬の保険申し込みの出足が好調である。聞けば、生まれて間もない当歳馬の取引がかなり活発に行われているようで、売買が成立した馬に保険をかけるケースが確実に増加している。一部の馬主層の中では、セールでの価格高騰や、希望馬を落札できないことを避けて、庭先で当歳馬を積極的に購入しようとする動きになりつつあるようだ。また従来、競走馬保険を利用されない生産者からの保険申し込みも確実に増えており、生産地全体として競走馬取引が活発に行われているようにも感じる。
当然のことながら、生産者の意欲も大変旺盛で、各種馬場は種付け最終盤を迎えているが、人気種牡馬は、種付けの申し込みに応えるべく、連日の3回種付けが続いている。確実な情報ではないが、繁殖牝馬の数もおそらく増加に転じているのではないだろうか。人気種牡馬を中心に種付けのボリュームがさらに大きくなった感じがする。
馬産地経済が好調なのは、大変嬉しい限りだ。中心街の空洞化が目立つ新ひだか町や浦河町、不通のまま放置されている日高本線、基幹産業でもあった木材産業や沿岸漁業の不振など、地域のマイナス要因が目立つ中にあって、好調な軽種馬産業が地域経済の根底を支えてくれているようにも感じる。これは馬産の好況だけが理由ではないと思うが、私の住む日高町でも、住宅の新築工事が結構目に付くようになった。全体的に好調さを持続している国内経済が、回り回って日高地域にも及んでいるのだろうか。
その一方で、日高中部から東部地域の農協合併問題が、馬産地の先行きに不透明感を漂わせ始めている。地元紙によると、合併を目指す4農協のうち、みついしを除く新冠町、しずない、ひだか東の3農協の不良債権額は132億円余り。債権総額に占める不良債権の割合は何と39%(道内農協の不良債権比率は6%弱)と、とんでもない大きな金額となっている。4農協の合併が正式に決まれば、JAグループから支援金が投入され、新生農協として再スタートが切れる手はずだ。但し、組合員にも資本増強のために応分の負担が求められ、不良債権については、債務者に対し徹底した回収業務が推し進められることが予想される。農地の評価見直しに伴い、さらに不良債権額が積み上がるともいわれており、正直予断を許さない状態だ。好調な馬の売れ行きと相反する産地の実情。問題の先送りが今改めて露呈した形ではあるが、この「爆弾処理」が、産地経済の未来に大きな影を落とし始めている。