2021年4月23日
令和3年・春
日本競走馬協会副会長の岡田繁幸さんが、3月19日に亡くなった。馬産地をけん引する実力者のお一人であり、ビッグレッドファームグループの代表として、強い馬づくりのトップランナーとして日々邁進されていた。
日本競走馬協会やJBC協会などの会議で、岡田さんの競馬にかける熱い思いを聞く機会が何度もあった。日本競馬を発展させるための明確なビジョンを誰よりもお持ちになり、またそのために自ら行動し実践される方だった。私はそばでお話を伺う立場に過ぎなかったが、岡田さんの主張やビジョンを間近でお聞きできることが、私にとってどんなに有難いことだったのか、軽妙洒脱でユーモアあふれるお話が、どんなに楽しいものだったのか……。まだまだいろいろなお話をお聞きしたかったし、岡田さんの夢がひとつひとつ実現していくのをこの目で見たかった。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
3月1日、日高では季節外れの雨が夜半過ぎから雪になった。翌2日朝、種牡馬ジャングルポケット(23歳)が馬房で静かに息を引き取っていた。平成24年12月よりブリーダーズ・スタリオン・ステーションで繋養されていたが、種牡馬の仕事を真面目にこなす一方で、普段はスタッフに従順な穏やかな気性の持ち主だった。種牡馬展示のたびにフレーメンを繰り返し、ファンの笑いを誘っていたことも懐かしい。
平成26年9月には、札幌競馬場のグランドオープンのイベントで、最終レースの後にジャングルポケットの展示会が行われた。たくさんのファンがパドックを囲む中で、ゆったりと周回する彼は競馬界のスターそのものだった。
最後まで凛とした姿勢を保ち人前で崩れるのを良しとせず、ジャングルポケットは天国へ旅立った。その日の朝、日高町一帯は、木々の枝などに透明な氷がコーティングされる「雨氷」現象が出現した。私自身初めて目にしたのだが、木々や枯れ草や電線などが氷に覆われてアイスキャンディー状になり、その氷が日の光に照らされてキラキラ輝く様は幻想的で美しく、ジャングルポケットが逝った悲しさと寂しさを慰めてくれた。
消える命があれば新しく誕生する命もある。新種牡馬フォーウィールドライブ(4歳)は、2月28日にブリーダーズ・スタリオン・ステーションに到着した。胸前が深く厚みのある筋肉をまとったその身体、柔らかい身のこなしとその歩様は、スピードと瞬発力を武器にした本馬の特徴を余すことなく伝えていた。3月7日には試験種付けも無事成功した。顕微鏡でその精液を見れば、「うじゃうじゃ」と形容するのが一番実感にマッチするくらいの精子数と活力である。これは本馬の受胎率の高さを予見させるものであり、私は思わず微笑んでしまった。もう1頭の新種牡馬フィエールマンともども、馬主や生産者の皆様に熱烈に支持される種牡馬に成長してほしいと願っている。
ジャングルポケットが旅立った日以降は、こんな年もないと思うくらい穏やかで温かい日が続いている。感覚的にも例年より2週間程度季節の進みが早いのではないだろうか。穏やかな天候に促されるように産地の出産状況も順調のようで、ひいては繁殖牝馬が発情の良い状態で種馬場に来場し、種付け業務も今が盛りである。ややスロースタートだったブリーダーズ・スタリオン・ステーションも、徐々に種付数が伸びてきて、前年同日を上回る種付数を日々記録している。放牧地に戯れる母馬と仔馬の数が日増しに増えている。新しい命の誕生と比例するかのように、気温もさらに上昇し間もなく春本番となるだろう。
4月1日に発表された速報では、昨年度(令和2年4月~令和3年3月まで)の地方競馬の売り上げは、前年度対比30%アップの約9122億8711万円に達した。売り上げが9000億円を超えたのは平成3年以来29年ぶりだ。地方競馬のスターホース・コスモバルクに象徴される岡田さんの地方競馬に対する熱い思いや挑戦が今、大きく実を結びつつあるように感じる。この地方競馬の上り調子をさらに確かなものとするべく、業界全体でよりいっそう頑張らねばならないと強く思う。