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日高便り

2020年6月25日

馬産地での巣ごもり生活

北海道事務所・遠藤 幹

 新型コロナウイルス感染が続く中で「ステイホーム」生活が呼びかけられ、自宅にこもる生活が続いたこの春。さすがに日高の牧場現場で巣ごもり生活を送れるわけもなく、皆が感染に細心の注意を払いながら、仕事を続けていた。
 勤務先のブリーダーズ・スタリオン・ステーションでも、種付けに来場する馬運車が多い日は20数台あるわけで、密な接触は避けながらも種付け業務は続いている。来場される皆さんも、種付け順番が来るまで馬運車にとどまり、種付け後は急ぎ帰る方が多かったように思う。同様に、サラブレッド・ブリーダーズ・クラブ事務所に立ち寄る生産者の方もごく少なく、馬主、調教師の方に至ってはこの数カ月皆無といった状況だった。
 馬産地の日高振興局管内で確認された感染者は3名にとどまり、流行が続く札幌市や周辺の石狩振興局など、道内のクラスター発生地域と比べると、感染者はごく少数であったのは幸いだった。外出自粛を呼びかける大ウエーブの中で、首都圏のテレビ局が取り上げるスーパーのガラガラな店内映像を見るたび、私自身は「地元のスーパーは普段からこんな感じだよな……」と、妙なところでコロナが蔓延しにくい地域の実情に安心したりした。調べてみれば、日高の人口密度は1平方キロメートル当たり約14人(総人口約6.7万人)。東京都の約6300人(総人口約1400万人)と比べれば何とおよそ450分の1! 山林原野が多いとはいえ、今更ながら超がつく過疎な地域であることに、地元民である私も驚いた。ただしゴールデンウイークの桜の開花時期には、札幌ナンバーの車だけにとどまらず、本州ナンバーもちらほらと見かけ、自粛できない人は結構いるなあと深いため息をついた。
 無観客でも馬券の売り上げが大きく減少しないJRA、逆に前年対比で売り上げを大きく伸ばす地方競馬の数字を見ては、ファンの皆さん、そして細心の注意を払って運営を続けている主催者の皆さんには感謝の言葉しかない。改めて競馬とネットの親和性の良さを確認した次第だ。
 SNSでつながっている知り合いの牧場の出産状況を見るたびに、新しい生命の誕生と、季節とともに進む競馬の移ろいに思いが至る。無観客競馬が続く中、クラシックレースも始まり、地元日高町豊郷の(有)長谷川牧場の生産馬デアリングタクトが圧倒的な強さで桜花賞、オークスの二冠を制し、新冠町の(株)ノースヒルズの生産馬コントレイルが、皐月賞、ダービーの二冠をこれまた素晴らしいパフォーマンスで制した。奇しくも両馬とも無敗の二冠馬で、いずれもここ10年の中でトップクラスの能力を秘めた競走馬だと思う。デアリングタクトはセレクトセール2018で取引され、オーナーの(株)ノルマンディーサラブレッドレーシングは岡田スタッドグループ。同グループの代表は、卓越した相馬眼で名高い当協会の岡田牧雄監事で、何やら縁を感じる。コロナ禍の中で無観客での競馬開催となったが、次代を担うスターホースが牡牝揃って誕生したのも、生産地のエポックメーキングな出来事だった。
 5月下旬には、当協会本部スタッフも来道し、セレクトセール上場選定委員会が開催され、セール上場馬も決定した。緊急事態宣言も首都圏と合わせて北海道も解除され、少しずつ経済活動も再開されつつある。セレクトセールもコロナ対策を様々に講じながら、予定通りの7月13日、14日の開催に向けて準備を加速している。セール時期には、今より気兼ねなくお客様を迎え入れ、素晴らしい馬との出会いの場を提供できるように私も微力ながら取り組んでいきたい。
 巷では、テレワークやリモート学習、社会的距離を意識した日常生活など、ITを駆使した働き方や新生活様式が盛んに喧伝されている。そのこと自体を私は否定するものではないが、この競走馬を取り巻く業界において全てが新システムに適合するものばかりではない。馬を介しての人と人との現実の出会いや繋がりが業界の活性化をもたらし、ファンの熱狂や興奮、感動はすべてリアルな現実界で起きるからこそ、競馬の醍醐味や面白さがあるように思う。新型ウイルスに細心の注意を払いながらも、一方ではウイルスと共存しなければならない社会の中で、競走馬を介しての人と人との密な関係をどう築いたらよいのか、セレクトセール開催を目前に控えて今一度考えてみたいと思う。
※文中敬称略

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